伊藤 幸彦

黒潮・親潮域におけるサブメソスケールの前線構造と混合過程 

研究概要 

海洋の鉛直混合  は、低気圧等に伴う強風や潮汐に伴う数百km以上の大きいスケールのエネルギーが数cm以下の小さいスケールに輸送される過程で生じます。このうち、海底における摩擦や、風や潮汐によって直接発生する内部重力波を介した混合過程については、その重要性が早くから認識されており、多くの観測が行われてきました。一方、海面を吹く風は、海洋を直接混合するだけでなく、大洋を巡る循環も作り出します。この大洋規模の循環に蓄積されたエネルギーは、さまざまな不安定過程を経て小さいスケールに輸送され、鉛直混合に至ると考えられています。1990年代以降に発達した人工衛星による海面高度の観測などからは、大洋規模の循環から派生したメソスケール(中規模:中緯度では数十km)の渦が無数に存在していることが明らかになっていました。しかし、より小さいサブメソスケール(数百 m 〜10 km)については、数値シミュレーション等では前線域(異なる海水が接する境界域)においてサブメソスケール現象が多く出現する様子が示されていましたが、従来の船舶観測ではサブメソスケール現象の調査は難しく、その構造や鉛直混合との関係については良くわかっていませんでした。

 私たちのグループでは、津軽暖水(黒潮から派生して対馬海峡、津軽海峡を経由して三陸沿岸を南下する海流)と親潮が流れる夏の三陸沖において、曳航式水温塩分プロファイラー(図1)と乱流計を用いた観測を行い、従来では捉えきれなかった10 km以下の前線構造を観測しました。その結果、津軽暖水と親潮の間に形成される非常に急勾配の前線に(図2)、潮汐が大陸棚の端にぶつかることで発生する内部重力波が捉えられ、鉛直混合が強まっていることが示唆されました。本研究では、黒潮・親潮域で多数発生するサブメソスケール前線を対象に、前線の構造、鉛直混合の実態とメカニズム、栄養塩輸送や生態系の影響について明らかにすることを目的とします。

 

図1. 曳航式水温塩分プロファイラー (Underway CTD)による観測の様子

図2. 三陸沖の津軽暖水・親潮前線帯の鉛直構造 (Itoh et al. 2016 doi: 10.1007/s10872-015-0320-6)

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

研究代表者:

伊藤幸彦(東京大学大気海洋研究所・准教授)

連絡先:itohsach@aori.u-tokyo.ac.jp
 URL: http://cesd.aori.u-tokyo.ac.jp/itoh/itoh_cesd/index.html


 

 

 


連携研究者:伊藤進一(東京大学大気海洋研究所)

連携研究者:長谷川大介(水産研究・開発機構東北区水産研究所)

連携研究者:羽角博康(東京大学大気海洋研究所)

連携研究者:吉澤晋(東京大学大気海洋研究所)