領域代表者 ご挨拶

安田一郎

安田一郎

 新学術研究領域「海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明(略称「新海洋混合学」)」のサイトをご覧いただきありがとうございます。

 「海洋混合学」と聞いて、難しそうだ、何のことかわからない、という方がほとんどだと思います。ここで扱う混合は、海水を上下に混ぜる「鉛直混合」で、潮汐流等の海流が海底の凸凹にあたる等した場合に、内部波と呼ばれる波動が発達して崩れる(砕波)と、重い海水が軽い海水の上に乗り上げるように渦が発生し、上下に海水を混ぜます。また、鉛直混合は、中深層に蓄積されている栄養塩等の化学物質を表層にもたらして生物生産に影響を与えたり、熱を中深層に運んで海水の密度を変えて海洋の循環をおこしたり、また、海面水温を変えて気候に影響したり、大変重要な役割を持っています。海底の凸凹や潮汐流は、場所や時間によって大きく変化するため、鉛直混合の強さは、大きく変化すると予想されますが、観測が難しかったために、現在でも良くわかっていません。

 一方、近年観測技術や数値計算技術が大きく進展し、鉛直混合の実態やその影響を研究する土台ができつつあります。本新学術領域では、日本が誇る海洋観測網を利用した鉛直混合の現場観測を軸として、物理・化学・生物の統合的な観測や、鉛直混合を取り入れた次世代の数値モデルを開発して、鉛直混合と海洋循環や生態系、気候への影響を明らかにすることに挑戦します。日本周辺の海域は、6%の海面面積で27%の漁業生産を揚げ、世界最大の生物生産による炭酸ガス吸収海域であることが知られていますが、その原因は鉛直混合にあるかもしれません。また、鉛直混合の長周期変動が海洋を通じて気候や水産資源の長周期変動に影響している可能性もあります。本新学術では、様々な分野の英知を結集してこれらの仮説を検証し、海洋混合学を構築します。