領域概要

本領域の目的

 本領域では、「海洋の鉛直混合」の観測システムを構築し、親潮・黒潮の源流域から東北沖を中心とした北太平洋・縁辺海で物理・化学・生物を併せた統合的観測を展開することで、海の混合の実態と発生機構および物質循環、気候、生態系への影響を明らかにします。鉛直混合過程を組み込んだ次世代の数値モデルを開発し、観測と併せて、混合の影響を定量化するとともに、混合変動が制御する海洋・気候変動と海洋生態系の環境応答を明らかにし、気候と水産資源の将来予測への道を拓きます。

 本領域では、月と地球の関係が生み出す海の鉛直混合の実態解明を通じて、深層循環の終着点である北太平洋において、どこでどのような鉛直混合が働き、栄養塩を含む中深層水が湧昇し、親潮や黒潮に影響を与えて、気候を変え、生物生産(海の恵み)の維持と長周期変動につながるのか、混合過程を軸として統合的に解明し、新しい学術領域「海洋混合学」を構築します。

 

本領域の内容

 本領域は、近年目覚ましく進歩した海洋観測とモデリングを両輪として、鉛直混合の実態とその影響を明らかにするための研究を展開します。

 まず、海底の起伏が東部太平洋に比べて激しく、比較的大きな鉛直混合が存在すると考えられている西部北太平洋において、開発されつつある鉛直混合測定手法を用い、また日本の誇る海洋観測網を活用して観測を展開し、鉛直混合分布の空間分布の実態とその発生過程を明らかにします。

 特に、西部北太平洋の海の恵み(豊かな水産資源や炭酸ガスの吸収の基になる生物生産の維持など)を支える仕組みを明らかにするため、強い潮汐と鉛直混合によって表層に栄養塩が供給されている可能性が高い黒潮・親潮源流域において、東アジア隣国と共同して物理・化学・生物を統合した現場観測等共同研究を行います(図)。

 また、時間的・地理的にまばらに存在する現場観測データを数値モデルの力を借りて補完(データ同化)することで、熱・物質の収支を解析するための統合データセットを作成します。これにより、鉛直混合の動態を解明し、栄養塩供給経路・過程の定量化などを目指します。

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本領域での、栄養塩循環・生態系研究の模式図。黒潮や親潮源流域での大きな鉛直混合によってもたらされる栄養塩が日本周辺での豊かな海の恵みを支え、潮汐18.6年周期鉛直混合変動がそれらの長周期変動をもたらすという仮説を検証する。

 鉛直混合の主要な発生要因の一つである潮汐は18.6年周期で振幅が2割程度変動します。鉛直混合の18.6年周期変調を組み込んだ大気海洋海氷結合気候モデルや物質循環モデルを開発し、鉛直混合の長周期変動が、気候・物質循環・生物生産に与える影響とその伝搬過程を明らかにします。

 海洋の生態系については、自動昇降装置や表層からの生物粒子の採集装置を水中に長期間設置し(図)、船・人工衛星観測等と連動して観測を行い、高い生物生産を生み出す仕組みを明らかにします。耳石(図)の微量分析から魚類の環境履歴を復元する手法を開発し、魚類を含む生態系モデルと併せて、鉛直混合を主とする長期変動が水産資源変動に与える影響の解明に挑みます。

 

期待される成果と意義

 西部北太平洋の中深層に至る鉛直混合の空間分布の実態が明らかとなり、鉛直混合とその変動を搭載した次世代の数値モデルが開発され、中深層循環や、中深層水に蓄積されている栄養塩の鉛直混合による湧昇、黒潮や親潮による栄養塩輸送を通じて、日本周辺海域の豊かな海洋生態系や炭酸ガス吸収など海の恵みをもたらす過程が定量化されます。また、生態系過程の解明や水産生物の経験環境履歴検出手法の開発により、潮汐18.6年周期振動に起因する鉛直混合変動が、熱や栄養塩の輸送変動を通じて、気候や海洋生態系、水産資源の長周期変動を引き起こす過程を明らかにすることで、気候・水産資源変動予測に道が拓かれます。

 

キーワード

海洋鉛直混合:海水が上下に混ざる過程。潮流等の海流が海底の凹凸にぶつかることで発生した波が砕け、渦となることで生じる。熱や栄養塩などの上下の輸送に寄与する。

 

研究期間と研究経費

平成27年度-31年度

1,112,600千円

 

ホームページ等

http://omix.aori.u-tokyo.ac.jp