川口 悠介

チャクチ・ベーリング海における乱流混合の生物生産・気候変動への影響評価

研究概要

極域の海洋混合の強さは海氷の有無によって大きく異なります。分厚い海氷が海面を覆っていれば、風などからの外部エネルギーが海洋内部に進入しにくいため、内部波や乱流に関わる小規模擾乱の活動は限定されます。一方、近年の地球温暖化に端を発する北極海の海氷減少は、海面の境界条件を急激に変化させることで、海洋内部に輸送・注入される乱流エネルギーを増大させつつあります。このような急速に変化する北極海・亜北極海の海洋混合の実態について、現場観測に基づくデータはまだまだ不足しており、極域海洋に特化した混合メカニズムへの理解や熱・運動エネルギー輸送の定量的な見積もりは不十分な状態にあります。我々は、主に船を使って北極海やその周辺の現場に赴き、現場観測の立場から当海域の海洋乱流化の実態を明らかにしていきます。

本研究では特に、北極海と北太平洋を結ぶチャクチ・ベーリング海などの浅海域を中心にデータ解析を進めていきます。乱流計による直接的な海洋の微細構造データを取りまとめると同時に、標準装備のCTDやADCP観測の結果との対応関係を見出だすことで、より大きな時空間領域における乱流場の変動を明らかにすることを目的とします。また化学・生物学分野の研究者と連携することで、どのような物理(乱流)環境下で生物活動がもっとも効率的に繁殖するのかといった疑問を明らかにしていきます。

図1:(a)海洋地球研究船「みらい」による北極海での乱流観測の観測点(MR09-03; MR10-05)。赤い領域は2009年9月の海氷被覆域を示す。(b)北極海の混合領域における代表的な水温・塩分と乱流変数の鉛直プロファイル(左図:水温、塩分、右図:χ, ε)

図1:(a)海洋地球研究船「みらい」による北極海での乱流観測の観測点(MR09-03; MR10-05)。赤い領域は2009年9月の海氷被覆域を示す。(b)北極海の混合領域における代表的な水温・塩分と乱流変数の鉛直プロファイル(左図:水温、塩分、右図:χ, ε)

図2:各等塩分面におけるポテンシャル水温 θ(上)、乱流エネルギー散逸率 ε(中)、水温変動分散の散逸率 χ(下)。左からそれぞれ表層(surface layer, SL)、夏期太平洋水(Pacific summer water, PSW)、冬期太平洋水(Pacific winter water, PWW)、上部大西洋水層(upper Atlantic water, UAW)での各変数の水平分布を示す。 (Kawaguchi et al., 2014より)

図2:各等塩分面におけるポテンシャル水温 θ(上)、乱流エネルギー散逸率 ε(中)、水温変動分散の散逸率 χ(下)。左からそれぞれ表層(surface layer, SL)、夏期太平洋水(Pacific summer water, PSW)、冬期太平洋水(Pacific winter water, PWW)、上部大西洋水層(upper Atlantic water, UAW)での各変数の水平分布を示す。 (Kawaguchi et al., 2014より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

川口悠介

 

研究代表者:

川口悠介

海洋研究開発機構 極域海洋物理学 研究員

 

 

 


 

研究協力者:

西野 茂人 海洋研究開発機構 海洋化学 主任技術研究員

藤原 周  海洋研究開発機構 海洋生物学 技術研究員

竹田 大樹 東京学芸大学 海洋研究開発機構 海洋物理 大学院生

松村 義正 北海道大学 低温研究所 海洋物理 助教