研究概要
海洋の混合過程を定量的に議論するにあたり、温度や塩分をはじめとする物理量の解析に加えて、海洋中に存在するさまざまな溶存物質を利用する方法がある。例えば、1970 年代に行われたGEOSECS 計画では、炭素同位体比の全球分布が定量的に明らかになり、海水の水塊年齢や海洋深層循環の時間スケールについての定量的な情報がもたらされた。現在、GEOSECS 計画時には測定が困難であった微量元素についての国際共同観測計画GEOTRACES が進行中である。そのような微量元素のなかでも、ネオジム同位体比は海洋内部では保存的に振る舞い、その分布はさまざまな水塊の混合によって決まっていると考えられており、水塊混合の指標になるとして注目されている。しかしながら、ネオジムそのものについては、海水中の浮遊粒子に吸着・除去されるプロセスが、海洋中の分布を決めるうえで重要であることも認識されてきており、ネオジム同位体比から混合の影響を定量的に見積もる際には、そのような海洋内部のプロセスについても陽に考慮する必要があると考えられる。
本研究では、海洋中の水塊混合の指標となるトレーサーであるネオジム同位体比に着目し、その分布を決めている海洋への供給・除去過程および海洋内部のプロセスを適切にモデル化したうえで、ネオジムとその同位体比についての全球分布を再現することを目指す。本研究によって確立されるネオジム同位体比のモデリング手法およびそのシミュレーション結果は、海の恵みを支える栄養・鉄の供給源についての情報を定量化するための新たな道具立てとして活用することができると期待される。
研究代表者:
岡 顕 東京大学 大気海洋研究所 准教授 海洋モデリング
http://ccsr.aori.u-tokyo.ac.jp/~akira/
連携研究者:
小畑 元 東京大学 大気海洋研究所 准教授 海洋地球化学
http://co.aori.u-tokyo.ac.jp/micg/Obata.html
連携研究者:
田副博文 弘前大学 助教 化学海洋学