大貫 陽平

潮汐混合ホットスポットの形成に関わる内部波共鳴現象の解明

研究概要

 急峻な海底地形上を通過する潮汐流の内部に生じる波動(内部潮汐)は、海洋中深層における主要なエネルギー源であり、散逸の際に鉛直密度混合を引き起こすことで縁辺海から全球規模に至るまで幅広いスケールの海洋環境の形成に関わっています。この内部潮汐の散逸をもたらすプロセスのひとつとして知られるのが、共鳴現象の一種であるparametric subharmonic instability (PSI)です。PSIは地球自転の影響を強く受け、その強度は緯度に依存して大きく変化します(図1)。特に半日周潮に対して共鳴強度が最大となる北緯29度付近を南北に貫く伊豆-小笠原海嶺上において、極めて高いエネルギー散逸率が報告されており、潮汐混合の「ホットスポット」が波動共鳴現象によって形成されていると推測されます。

 内部潮汐に伴う海水混合は、波動の発生源の近くで生じるNear Field Mixingと、遠方への波動伝達によって生じるFar Field Mixingの二種類に分けられます(図2)。過去の研究は主としてFar FieldにおけるPSIの解明を目指して進められて来ましたが、本研究課題では海底地形から上層へと射出する局地的なビーム波の中で生じる共鳴現象に目を向け、Near Field Mixingの物理を探ります。流体方程式の理論解析と数値シミュレーションを主たる研究手段とし、観測データとの比較を交えながら、海嶺上の混合強度の定量化とそれを踏まえた循環モデルの精度向上への貢献を目指した基礎研究を推進します。

 

 

図2. 海底地形上を通過する順圧潮汐中で発生する波動(内部潮汐)は、Near Field成分とFar Field成分に分けられる。本研究ではNear Fieldにおいて鉛直伝搬するビーム波中で生じる共鳴不安定機構と、それに伴う鉛直密度混合の物理を探る。

図1. 半日周期(M2分潮)内部潮汐の最大波長モードに対して作用する内部波共鳴強度の全球分布推定図。カラーバー下の数字は内部潮汐がエネルギーを失うまでの時間を表し、赤く塗られた海域で共鳴が卓越する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

研究代表者:

大貫陽平  九州大学 応用力学研究所・助教・海洋物理学

https://www.riam.kyushu-u.ac.jp/omg/index.html.ja

 

 

 


研究協力者:

日比谷 紀之 (東京大学 大学院理学系研究科・教授・海洋物理学)

安田 一郎 (東京大学 大気海洋研究所・教授・海洋物理学)

広瀬 直毅 (九州大学 応用力学研究所・教授・海洋モデリング)

松村 義正 (東京大学 大気海洋研究所・助教・海洋物理学)

田中 祐希 (東京大学 大学院理学系研究科・助教・海洋物理学)

伊地知 敬 (ウッズホール海洋研究所・研究員・海洋物理学)