三寺 史夫

数値シミュレーションによる北太平洋栄養物質循環の三次元構造と長期変動の解明

研究概要

 本研究では、オホーツク海・ベーリング海・親潮など北西北太平洋の「豊かな海の恵み」を生み出す仕組みの解明を目的として、栄養物質循環の数値モデリングおよび縁辺海を含めた新たな栄養塩データの作成を進めます。北西北太平洋における高い生産性を解明するためには、海洋の中深層に蓄えられている栄養塩や鉄分がどこで表層に湧き上がり、どの経路を通って西部亜寒帯海域に至るのか、という北太平洋全体の三次元的な物質循環の理解が不可欠です。本研究では、これまで注目されてきた中層の鉄循環に加え、アリューシャン列島や千島列島の海峡などで湧昇するリン等主要栄養塩の広域分配プロセスにも着目します。このため、2つのタイプの潮汐混合パラメタリゼーションを用いて栄養物質循環モデルのシミュレーションを実施するとともに、その結果を新たに作成する栄養塩の解析結果と比較し予測可能性を評価します。具体的には、

  • 従来型の鉛直混合パラメタリゼーションを用いた北西北太平洋モデル

オホーツク海・ベーリング海を含む比較的低解像度のモデル(水平解像度0.5°)である。前回の公募研究では、鉄の季節変動に対して高い再現性を得ました。今回は潮汐混合の18.6年周期を含む経年変動実験を行い、栄養塩データの多い親潮域の観測との比較を行います。

  • 潮汐モデルと結合した新たな北太平洋物質循環シミュレーション

北太平洋全領域をカバーするモデルで曲線直交座標を用いており、オホーツク海から親潮にかけて特に高解像(3~7㎞)としています。千島列島周辺の強い鉛直混合を、潮汐モデルの帰結として表現するというパラメータ化を施すことによって、混合による湧昇と海流による移流がもたらす栄養塩の三次元循環の再現性の向上を目指します。そして、親潮とその東方の移行領域における高い生物生産の要因を明らかにするとともに、18.6年周期での潮汐変動を含む栄養塩の経年変動メカニズムを解明します。

  • 縁辺海を含めた表層栄養塩データセット

栄養塩の長周期変動の実態を把握するため、縁辺海を含めた新たな栄養塩データセットを作成し、経年変動・十年規模変動に着目して解析を行うとともに、シミュレーションの再現性および予測可能性を評価します。

上記に加え、2018年に実施されるベーリング海から千島列島にかけての大規模な観測と当該シミュレーションを有機的に結びつけることによって、北太平洋栄養物質循環像の新たな創造を目指します。

 

3月から8月に消費されたリン酸塩(左)観測(World Ocean Atlas)、(右)モデル

 

 


研究代表者:
三寺史夫 北海道大学 低温科学研究所 附属環オホーツク観測研究センター 教授
海洋物理 「総括」

 


研究協力者:中村知裕 北海道大学 低温科学研究所 附属環オホーツク観測研究センター 講師
海洋物理 「北太平洋物質循環モデルの開発、混合パラメタリゼーションの改良」

研究協力者:中野渡 拓也 国立極地研究所 国際北極環境研究センター 特任研究員
海洋物理 「北西北太平洋物質循環シミュレーション」

研究協力者:安中 さやか 国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター 研究員 海洋物理 「長期栄養塩データの作成および解析」

研究協力者:西川はつみ 北海道大学 低温科学研究所 附属環オホーツク観測研究センター 講師
海洋物理 「北太平洋物質循環モデルの開発」