研究概要
深層海洋の水は、表層からの熱拡散(乱流混合)をうけて浮力を得ることによって湧昇するため、深層海洋大循環のパターンや強さは、微細な乱流混合過程にともなう混合強度分布に強く制御されます。さらに、深層海洋中の炭素(炭酸)や窒素(硝酸塩)は、深層水の湧昇過程にともなって、表層へ浮上することから、乱流混合過程は炭素や窒素といった物質の循環、そしてこれらを消費する生態系の活動にも大きな影響を与えると考えられます。そのため、気候変動研究で必要不可欠な、海洋中の水および物質循環の数値モデリングにおいては、適切な混合強度分布を与えることが必要となります。海洋中の乱流混合は、潮汐流が地形にぶつかったり、大気擾乱が海上を通過したりすることによって励起された内部重力波が、砕波することで引き起こされます。そのため、今までの研究から混合強度分布には著しい空間依存性があることが明らかにされてきましたが、従来の数値モデルでは、 深さのみに依存する経験的な分布が用いられており、炭素・窒素循環に乱流混合が果たす役割は評価されてきませんでした。
この研究では、大気・海洋それぞれの大循環や、海洋生態系、陸域生態系などを表現できる数値モデル、地球システムモデル(図1)を用います。このモデルに、高解像度潮汐シミュレーションに基づく混合強度の時空間分布を導入して数値実験を行い、従来型の混合強度分布を数値モデルに与えた場合と比較することにより、混合強度分布の違いが、大気海洋間の炭素フラックスや海洋中の炭素濃度、窒素濃度、生物生産量などをどの程度変化させるかを評価します。
研究代表者:
渡辺路生
連携研究者 :羽島知洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム 技術研究員
連携研究者:山本彬友 国立研究開発法人海洋研究開発機構 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム 特任研究員
連携研究者:建部洋晶 所国立研究開発法人海洋研究開発機構 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム 主任技術研究員