研究概要
日本周辺を流れる西岸境界流である黒潮は、熱帯から流れてくるためにその表層は貧栄養であるが、亜表層水には豊富な栄養塩が含まれています。この強流が、海峡を通過したり、島や海山周辺を流れることによって、亜表層の栄養塩が表層に供給されることは以前から指摘はされてきました。本研究では、ルソン海峡から台湾沖、東シナ海大陸棚縁辺部、トカラ列島、日本南方までの広範囲にわたって、強流が地形にあたった時の影響やフロンタル渦等の鉛直混合プロセスで、どの場所でどの程度生物生産が増加しているか、どのような植物プランクトンが増加しているかを、主に様々な海色衛星データを利用して明らかにします。
これまでも、黒潮周辺域で地形によって起こる渦やフロンタル渦などの鉛直混合によって、栄養塩が表層に供給されることによって植物プランクトンが増加することは、断片的には知られてきました。また黒潮がトカラ海峡を通過する際などに強い鉛直混合が起こっていることが、最近の直接的な乱流観測によって明らかとなってきています。しかし、これまでの現場観測ではごく断片的な情報しか得られておらず、広範囲にわたる黒潮周辺域全体での、鉛直混合による植物プランクトンの変動に対する影響に関しては明らかとなっていません。本申請では衛星リモートセンシングを利用して、その全体像をとらえことを試みます。
本研究では、20年にわたる海色衛星データの蓄積及び2017年末に打ち上げられた日本の高解像度海色衛星「しきさい」などのデータ等を用います。また、物理・化学・生物プロセスとの関連を理解するために、平成29年度までに新学術領域等で行われた現場観測結果と衛星データと比較を行うほか、平成30・31 年度の東シナ海周辺等での現場観測に参加し生物光学観測も行います。
研究代表者:石坂丞二
名古屋大学 宇宙地球環境研究所 陸域海洋圏生態研究部 生物海洋学
http://co2.hyarc.nagoya-u.ac.jp/